ヒレ酒の季節なのである。今夜も島と平瀬健一は二人で夕食なのである。十分稼いでいても金の使い道がなくて困っているのだろうか。たんに美食家の2人ということなのだろうか。いつもかなり値が張りそうなものを食べている2人なのである。
しかし、会話の中身はいつも仕事なのである。剣持松男は監査役としての仕事はしっかりしていて、経営内容を精査しているようである。剣持が現在受けている仕事はほかにあるのだろうか。メガバンクの支店長を務めたキャリアをウリにすれば、UEMATSU以外の社外監査役やコンサル案件などで忙しくなりそうだが。それよりもUEMATSUの後継になることを重視していて、経営内容の精査もそのためのように思われる。
怪しい取り引きなど一発で見抜くさすがの元敏腕銀行マン
剣持がチェックした内容によると、どうやら社内の取引先の1つに疑問がわいているようである。UEMATSUくらいの企業規模になると、取引先や取引金額、内容まで細かいチェックが必要なのだろう。取引先としての信頼性、取引金額の妥当性など、チェックすればキリがないのだが、剣持が調べたところ、相場以上の金額で支払った形跡があるという。
相場はあくまで相場であり、取引内容によっては高くなることもあるだろう。しかし、疑惑は一気に社内の不正取引まで展開するのである。こんな相談を、社外取締役としては新参の島に持ちかけるのは妥当なのだろうか。それとも島のキャリアや人間性が信頼につながっているのか。
社内の人間に不正取引の疑惑があるので、長峰和馬や、実質的に執行役のトップを務めている上杉博志あたりに相談を持ち掛けるのは適していない。副社長で社長代行の植松圭介など論外である。相談にもならないだろう。だからこそ、剣持はフラットな島に相談したのではないだろうか。
言われなくてもおそらく自費で独自リサーチに繰り出す熱心すぎる社外取締役
さて、疑惑について取締役会で議題に挙げるべき案件だが、島と平瀬は事前にちょっとリサーチするつもりである。なんと頼れる社外取締役なのか。ここまで熱心に関わってくれる社外取締役であれば、年間数千万円の報酬を払っても惜しくないだろう。
そして、リサーチといえば小暮探偵事務所である。となれば、グレちゃんから再び七瀬五郎登場だが、今回の依頼内容は比較的イージーに思える。疑惑に上がっている「松比良塗装」のことを調べ、UEMATSUを担当している人間を明らかにすることだ。ところで、この探偵に依頼する費用はどこから出ているのだろう。今回は剣持も依頼者の1人だが、島のスタンスから考えると、剣持に一部を負担させることはない気がする。そう考えると、ここも島と平瀬の費用持ちなのだろうか。
有能介護士は身体能力の回復はもちろん心も満たす
ところ変わって、天慶医大医療センターである。有能な介護士はほぼ植松権兵衛会長の専任なのだろう。介護士の名は新谷という。この女性のおかげで権兵衛は少しばかりではあるが、1人で歩けるほどに回復している。
有能な介護士に権兵衛も信頼を置いているようである。だからこそ先日、病室を訪れた銀座のクラブ「ゾラ」の園子のことも普通に話してしまうのである。園子との付き合いは25年にわたるようだ。23歳からというのだから、権兵衛も悪い人間である。園子のほかにも多くの女性がいたようだが、それは金の力であったと権兵衛は思っているようだ。しかし、金も立派な力なのである。ただ、羽振りよく金を使える体でなくなった権兵衛に一番沁みるのは、優しさのようである。だからこそ、介護士の業務を超えたスキンシップが効いてしまうのである。夫婦ともに陥落の危機なのである。