「ゴルフ政治」である。そんな言葉が実際にあるのか、どの程度使われているかは不明だが、島耕作ワールドでゴルフ政治はまあまあ使われるのである。今回ラウンドレッスンを受けるのは、UEMATSUで営業本部長を務める高藤成行である。
副社長の植松圭介から思いがけずゴルフに誘われたことで、なんだか勘違いしている高藤である。まさか恐怖のラウンドレッスンが行われるとは、予想だにしなかったに違いない。高藤の部下などは、上司が副社長にゴルフの誘いを受けたことを茶化すほどである。しかし、この光景を見るかぎり、組織の風通しは悪くなく、部下も高藤の不正疑惑など全く感じていないようである。
ちょいちょいプレッシャーをかけられたら誰でもプレイに影響するのである
ゴルフのメンバーは、島と平瀬健一のお馴染みのコンビに加え、決してうまくない剣持松男、そして高藤である。副社長は急用というテイで、不在である。
高藤のゴルフの腕は、なかなかのものである。UEMATSUの中では1,2位を争うほどのシングルプレーヤーだそうだ。営業本部長とはいえ、いちサラリーマンにすぎず、学生時代にゴルフ部だったなどの経歴もない高藤は、なぜそんなに上手いのだろうか?センスの塊なのだろうか。
そう、ヒントは頻繁なゴルフ場通いである。島や平瀬がおそらく自腹で探偵を雇い調査した結果、高藤の週末の過ごし方は、主に接待ゴルフのようだ。さまざまな下請け業者の接待を受けた結果、彼のゴルフの腕前は磨かれていったのだった。おそらく自分もゴルフが好きで、センスもあったのだろう。普段は比較的安価な打ちっぱなしなどに通い、接待ゴルフで実践といったところだろうか。
さて、その高藤だが、どうやらプレッシャーに弱いようである。茨城のゴルフ場でよく見かけるという話を振られ、松比良塗建との関係をさりげなく聞かれ、キョドりまくり、汗でまくりである。ゴルフはメンタルスポーツといわれる。シングルプレーヤーとして鳴らすゴルフの腕前も、4パットのダボを叩くほどガタガタである。
ハーフ後の追及は予想できそうなのになぜ昼食を注文してしまったのか
恐怖のゴルフ政治もハーフを終えて昼食時である。オーダーが届くまで、不正疑惑、松比良塗建との関係を逃げ場もなく、ただただ詰められる高藤は、生きた心地がしないだろう。
懇意にしていて、接待ゴルフ漬けであれば、入札など形だけのものだろう。業界3位の会社が進める事業である。多くの会社が入札には参加するだろうが、結果は入札前から決まっているのだ。いわゆる談合である。高藤と松比良塗建との関係は20年ほど前から続いており、いつごろからか、工事の発注は松比良塗建になっていたということだろう。
もちろん、無条件なわけがない。接待ゴルフプラスアルファの見返り、つまりバックマージンが存在する。高藤には400万円、岡林には100万円が、松比良塗建の2代目社長からわたっているのである。このようなことが長い期間行われてきた、ということだろう。しかし、数百万円を渡すほど、儲けのある事業だったということだろうか。規模が気になるところである。
ボコった後は何事もなかったように午後のラウンドをこなす3名
ただ、民間同士のやり取りなので贈収賄には当たらない。とはいえ、背任行為である。UEMATSUから告訴されたら、高藤も岡林も背任罪で有罪判決は免れない。まあ、執行猶予は付くかもしれないが。
ただ、そこは圭介副社長の恩情である。権兵衛の子飼いの生え抜き社員ということで告訴は見送り、辞職を促すようだが、懲戒免職処分されるよりよほど良いだろう。退職金等も払われるかもしれない。受け取ったバックマージンの行方、返却などはどうなるのか。そこまで詰めることはしないのだろうか。
ほぼ何も話さず、運ばれてきた肉うどんにも箸が進まないようで、ゴルフ場を後にする高藤。それはそうである。こんな話をされた後で食事をするほど豪胆ではない。剣持松男なら平気で口にしていたかもしれないが。
さて、高藤は体調不良ということにして、午後のラウンドを続行する面々。恐怖のゴルフ政治の後も平然とプレーできるぐらい神経が太くないと、この世界を生き抜くことなどできないのである。