お気に入りマンガの感想のようなブログです【一部ネタバレあり】

【STEP29】Born To Be Wild

ここにきて映画「Easy Rider」で知られる、Steppenwolf の代表曲である。UEMATSUの社外取締役連中はかなりちゃんと仕事をしているようであり、今回はUEMATSUの取締役議長を務める徳野恭三(五井不動産会長)の掛け声のもと「エグゼクティブセッション」を開く模様である。エグゼクティブセッションは、社外取締役だけで開催される委員会で、ようは元からいるUEMATSUの人間は外し、社外の人間だけで会社や剣持松男新社長の評価をするということだろう。毀誉褒貶(きよほうへん)とされる剣持の評価は、社外取締役から見たらどう映るのだろうか。


矢継ぎ早に企業買収を成功させる剛腕はどこを目指すのか

さて、これまたご立派な料亭で開催されるエグゼクティブセッションである。剣持は社長就任以降の4ヶ月で多くの案件をまとめているらしい

M&Aを仕掛けて買収にほぼ成功しているのは以下の2社である。
・レインボー工業(業界3位)
・松比良塗建(茨城県4位)

UEMATSUも業界3位だった気がするが、まあ良いだろう。そして、松比良塗建は実質的な子会社だったことから買収を進めたのだろう。松比良としても、高藤との関係を追及されたら終わりである。おそらく松比良の売上の多くはUEMATSUとの取引が占めるのだろう。そんななかで、UEMATSUとの取引が停止になれば死活問題だ。そして、剣持のことである。それらをネタに、松比良にUEMATSUのグループ会社になることを提案したと推測される。まあ、松比良としても、行くも戻るも地獄である。そして近い将来、松比良の2代目社長は剣持に何らかの理由をつけられ、追放されるだろう。

さらに剣持は、地元である山形のケーブルテレビ局との買収交渉も進めているようである。これらがすべて成功すると、今期末の売上は業界トップに躍り出るようである。業界トップは剣持が社長就任時に公言していたことであり、まさに有言実行である。

この実行力はさすがだ。日曜日に出社に事務仕事をするだけのことはある。この実績は、入社式でChatGPTが作った挨拶を聞いた新卒社員も驚くのではないだろうか。

企業買収の実務プロセス(第3版)

しがらみのない外部の人間だからこそ振るえる剛腕もある

ただ、一方で、剣持の強引なやり方は社内でいくつかの問題を生んでいるようである。有無を言わさないトップダウン型経営は、短期で業績を上げる場合は良いほうに転がるかもしれない。ただ、剣持はそれだけでなく、リストラのような形でUEMATSUグループ内の配置転換をしているようである。

剣持のことである。おそらく業績の悪さなどをつついて、自分の意に沿わない植松権兵衛子飼いの生え抜き社員や、役に立たなそうな社員を一掃しようとしているのだろう。しかし、それができるのは社外から社長に就任した剣持だからである。そして業績は上がっていて、業界トップに躍り出ることも現実的なところにいる。多少の強引さは好調な売り上げの陰に隠れてしまうだろう。エグゼクティブセッション参加者も、剣持の強引さを懸念しつつも、実績を上げている現状ではまだ静観せざるを得ないといったところだろう。

しかし、剣持は現在、株式をロクに保有していないはずである。大株主は創業者の植松権兵衛だろう。権兵衛と剣持の関係は悪くないとはいえ、各案件を強引に進めるやり方はどこまで通用するのだろうか。剣持は権兵衛と定期的に話をしたりしているのだろうか。


株式会社の中で一番力を持つのは筆頭株主だが剣持に勝ち目はあるのか

さて、エグゼクティブセッション参加者の中で、剣持が権兵衛の妾腹であることを知っているのは、島と平瀬、徳野の3人だけである。社外取締役の1人が推測する、「剣持は創業家の血を一掃しようとしているのでは」というのは大外れである。むしろ、脈々と受け継がれようとしているのだ。

繰り返しになるが、株を持っていない人間が創業家に逆らって極端な人事刷新を試みても、限界があるのだ。そして、その少しずつ社内に溜まっているであろう不満が、クーデターのような形で噴き出る可能性も考えられるだろう。起こすことしたら高藤成行営業本部長ではないかというのが、島の予想である。松比良塗建から賄賂を受け取り、会社から懲戒免職処分を受けた人間がクーデターを企てたところで、他の社員がついているとは思えないが、どのような結末を迎えるのだろうか。


間髪入れずすぐ動きがあるスピード感の良さが島耕作ワールド

高藤は長峰和馬を通じ、植松貴子との接触を試みるのである。JAZZ COFFEE CAFÉ「Clair」に集まった3人だが、高藤が切り出した話の内容はイマイチ理解に苦しむ。バックマージンの慣習は昔からあり、UEMATSUが受け取ることも、渡すこともあったようである。「皆、昔からやっていたことだ」というのが、高藤の言い分だろう。慣習云々でも許されることではないのだ。それをいきなり剣持に刺され、懲戒免職処分をくらったのがよほど悔しいのだろう。

解雇によって高藤は、妻に逃げられ、ローンを管財したばかりの自宅も売り払う羽目になったようである。まあ、これも自業自得というか、バックマージンの件も、どこまでさかのぼるか、たまたま帳簿上で不審な点が見つかっただけか、難しいところであるが。高藤は生え抜き社員であり、剣持から見て自分に敵対しそうと思われたのは、運が悪かったのかもしれない。もしくは、どこかのタイミングで「無能」の烙印を押されたことで、賄賂を理由に排除されたのだろう。賄賂云々が業界的にまかり通っていることなど、金融業界の人間だった剣持が知らないわけがない。会長夫人を口説き落とすような人間なのだから、品行方正さや正義ぶるつもりもないだろう。

自分たちの不手際などを棚に上げて復讐を企てるとは片腹痛い

UEMATSUの現状は見方によってさまざまだろうが、実際に関わってきた3人にとって、このままでよいわけがない。特にに貴子にとっては、息子の圭介がUEMATSUの仕事から外されていくのを、指をくわえて見ているだけになる。剣持のことだから、圭介の愛人である清宮由美子を自分のものにした次は、圭介の地位や仕事を奪いに来るはずである。

さて、動向はすべて大株主の権兵衛が握っているような気がするのだが、どうなのだろうか。繰り返すが、現状で剣持が所有している株はゼロか、ごくわずかなはずである。権兵衛がこっそりと、自身の第一子である剣持に株を譲渡している可能性もあるが、そういった行動はさすがに社内、もしくは社外取締役の誰かが把握するだろう。

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「復讐するは我にあり」といった様子で、カフェで反撃ののろしを上げる貴子だが、自分の行動を顧みることはないのか、と思わなくもない。長峰と高藤を前にして、「実は一時期、剣持と愛人関係にあった」とは口が裂けても言えないだろうが、黙っているのもフェアではない気がするのだ。しかし、都合の悪いことはひとまず言わずにおいて、剣持のこれ以上の独裁を許さないために共闘を誓うのである。