働く社外取締役、島耕作である。しかしテコットの中央研究所に集まった面々に島はいないのである。さすが、場をわきまえているというか、自分はあくまでテコットとUEMATSUをつないだだけで、ひとまずお役御免ということなのだろう。
主人公がいなくてもストーリーが進むのがこの作品の特徴である
さて、研究所に集まった面々は以下だ。
小塚周平(防衛省 副大臣)
三浦臥龍(がりゅう 防衛省 施設監)
長峰和馬(UEMATSU塗装工業 常務執行役)
森久三郎(きゅうさぶろう 森塗建有限会社 社長)
四谷嵐子(テコットホールディングス 社長)
友部光(ひかる テコット中央研究所 第五開発部長)
テコットのトップである四谷は参加しているが、UEMATSU側のトップである剣持松男は参加しなくても良いのだろうか。長峰で務まるのか若干の不安があるのである。
そもそも四谷と長峰は初対面なのではないだろうか。直接、島が関わるわることはないかもしれないが、最初のこの会くらいは顔を出しておくほうが何かと良い気がしたのだが、大丈夫なのだろうか。
いくら技術が進んだとしてもゴッドハンドに勝るものはないのである

防衛省が求めるステルス塗装技術についてだが、やはり最後は人間の手が必要とのことだ。全自動スプレーでの塗装を上回るのは、熟練の職人による「神の手」ということなのだろう。森久三郎、最後のお役目である。
老齢ながらテコットの研究所に寝泊まりしての作業はなかなか大変そうだが、やる気に満ち溢れている久三郎ならやり切るはずだ。これこそが昭和の職人の矜持であり生き様か。そして、その間の工場の仕事はUEMATSUが回してくれるという。これはこれで、長峰と森塗研との癒着を剣持に疑われそうであるが、大丈夫なのだろうか。
ともあれ、森塗研の協力も得られ長峰も一安心といったところだろうか。長峰から報告を受けた島も安堵のようで、次はいよいよ剣持に本件の相談を持ち込む段に移るのである。
プレゼン下手な長峰、無念の討ち死に

中卒からのたたき上げで執行役員にまで上り詰めた長峰だが、やはり根は職人なのだろう。プレゼンや上長への立ち振る舞いなどは、あまり上手くないようである。
そもそも、剣持はUEMATSUの売り上げ拡大に注力しているのである。儲けの薄い事業プランを持ってこられたところで、一蹴されるのがオチなのはちょっと考えればわかるはずだ。そして、長峰も長峰である。利益は薄いがお国のため、などと言っても、金融出身の剣持が頭の中ではじくのは、リアルな数字だけなのだ。ただでさえ野心家で、UEMATSUを業界トップにしようとしている人間である。かつ、生え抜き社員を平然とカットし始めている、スーパードライな人間なのだ。長峰の自滅というか、甘さという他ないだろう。
ここは少なくとも、台湾クライシスの確度を高めに見積もり、利益が見込める事業であること、かつて財閥系大手が入り込んでいた事業だが、撤退により枠が開いたこと。ステルス事業に進出することで防衛省とのコネクションが築けること、などは強調すべきではなかったか。
長峰の側近に、優秀なプレゼン資料を作成できる人間がいなかったのか、または、これまでは植松権兵衛会長には、細かい数字やメリットを強調しなくても通じていたのか。
いずれにしろ、準備不足であり、島のことを快く思っていないことも含めての、剣持対策が足らなすぎるのだ。剣持としては、会社のために利益の出ないような事業を認めるわけにはいかない、という大義名分で一蹴である。長峰ごときの提案で、しかも大して利益が見込めないとなると、赤子をひねるようなものだろう。長峰の討ち死には当然なのである。