お気に入りマンガの感想のようなブログです【一部ネタバレあり】

【STEP1】I Feel Free

ついにサラリーマンでなくなった島耕作である。ただ、大企業TECOTの会長まで上り詰め、経済交友会のトップまで務めた人物である。仕事の話はいくらでもあるだろう。プロ経営者なり、別会社の顧問なり、大学の客員教授などの声がかかっても何らおかしくない。当然、社外取締役としての声もかかる。

そこで話を持ってきたのは、元同僚で友人の平瀬健一(はつらつ介護システム・CEO)である。自身も社外取締役を務めているUEMATSU塗装工業の社外取締役の打診で、役員報酬は1,500万円だという。東証一部上場企業の社外取締役の平均年収は663万円というデータもあり、そう考えると、UEMATSUの社外取締役の報酬なかなかの高額だ。とはいえ、経済交友会代表幹事の経歴からすれば当然の額なのかもしれない。とはいえ、金額で動く島耕作ではない。UEMATSUでのやりがいを見出してから決断するのがこの男である。

健啖家はいつまでも元気で長生きする

ビジネスの話がひと段落したら、当然ながら会食である。平瀬と料亭でナパのワインでのどを潤し、しゃぶしゃぶに舌鼓をうつ。2人とも高齢ながら食が細くなる感じは全くなく、平瀬にいたっては胃の調子が良いようで、肉500gを平らげるつもりのようだ。やはりよく食べる人間は強い。これは水木しげる先生が証明してくれている。弘兼先生も間違いなく健啖家だろう。


社外取締役とは会社を見張る役割である

さて、今話は料亭の女将が読者の代わりを務めてくれている。テーマは「社外取締役とは?」である。女将の「社外取締役とよく耳にする役職はどんな仕事をする人なのか?」という、分かるような分からないような疑問に、島と平瀬はしゃぶしゃぶを堪能しながら答えるのだ。

企業経営者が出入りするような料亭の女将であるからか、質問にも無駄がない。島が「社外取締役は会社を見張る役割だ」と答えれば、女将は声のトーンを少々上げて「なにを見張るのか?」と聞き、見張りは経営のチェックだと理解すると、「しかしそれは社内の人間がチェックすれば良いのでは?」と次の会話につながるような質問を返す。見事な如才のなさである。


面倒くさい会社の仕事でもポジティブに捉えるのが島の素晴らしさである

「BAR ジャンゴ」に場を変えても島と平瀬は相変わらずUEMATSU塗装工業の話を続ける。UEMATSUの取締役会は11人で構成され、うち社外取締役は7人。社内の4人は植松権兵衛(会長兼社長)、息子の圭介(副社長)、上杉博志(人事担当執行役)、長峰和馬(営業本部長執行役)である。ただ、社外取締役7名とは対立関係ではなく、7名のうち2名は会社寄りの人間だという。ということは、植松権兵衛に近い人間ということだろう。この関係は決して良いとはいえない。実質6対5で会社よりになるため、社外取締役の意見は多数決で否決になってしまう可能性が高いためだ。

そうなのだ。「見張り」のための社外取締役が見張っていても、意見が通らないのであれば意味がない。取締役会を構成するのに社内の取締役が多くては、体をなさないも同然なのだ。

そこで面倒なのが、UEMATSUの会長である植松権兵衛会長である。社外取締役に対し、「外部の人間は黙っていろ」的な、非常に分かりやすい人物のようだ。何のために社外取締役を置いているのか?と頭を抱えてしまいそうであるが、それを笑いながら「やりがいがある」と受け止めるのが、島耕作なのである。