植松権兵衛は、ごんべえではなかった。権兵衛の読みは「ごんのひょうえ」だったのである。会長夫人が言っているので間違いないだろう。ノーヒントで初登場から「ごんのひょうえ」と読めた読者は存在しただろうか。ほぼ皆無であろう。人間の凝り固まった考え、思い込みなどその程度である。
さて、会長夫人との距離を詰めていく剣持松男。松男は軽口もイケるタイプなのだろう。シャベリもやっていけなければ、メガバンクの支店長など務まらないのかもしれない。肉とワインよりも優先すべき会長夫人をヨイショしつつ、親密さを深めているようだ。知らんけど。
さて、島は後日、会長夫人に呼び出されるのである。目的は何か?どうも剣持松男の人となりを知りたいようだが、人間性から仕事ぶり、社外監査役としてふさわしいかを見極めたいわけではないのは、BBQパーティの場にいた人間なら誰でもわかるだろう。いやわかるのは男女関係の機微に聡い、島と平瀬健一だけかもしれないが。ようはまあ、剣持松男ともっと親しくなりたいだけなのである。島も、どうでも良いことに巻き込まれたように思えるが、ゴルフのセッティングをするのである。こういったことを面倒くさがらずにやるのが島なのだ。
おなじみの島と平瀬に、剣持松男そして植松権兵衛会長夫人の4人でのゴルフラウンドである。松男はそもそもゴルフが得意ではないし、会長夫人も下手である。しかし今日は、上手い下手などどうでも良いのである。
松男と親しくなるのが目的のゴルフだから、露骨であっても本人から持ち上げられたら、はしゃいでしまうのである。年齢など関係なく、女の子になってしまうのである。なんなら奥様など堅苦しい呼び方など勘弁してほしくて、名前で呼んでほしいのである。ちなみに会長夫人の名は「貴子」なのである。
さて、ラウンドが終わって解散なのだが、剣持松男はなぜクルマで来なかったのか?メガバンクの支店長まで務めた人間であり、クルマくらい所有しているはずである。運転が下手なタイプにも見えない。もしかして、貴子がクルマでコースに来ることを読んでいたのだろうか。松男の意図は読めないが、貴子としては一緒に帰るチャンスなのである。しかし、それは松男にとってもチャンスなのだ。
副頭取にビールをぶっかけた人間と同一人物と思えない松男の豹変ぶりには、75年間、生きてきた島と平瀬も驚くばかりである。ゴルフ帰りの車中など、2人にとっては密室なのである。運転手など存在しないも同然なのである。当然、行先は変更である。2人を乗せたベンツはさすがにホテル直行はなかったが、レストランへGoなのである。