読者からもすっかり忘れて去られていた気がするが、島耕作はもう一社の社外取締役も務めているのである。株式会社アントパスという、手作り総菜の配送サービスである。田上恵司が社長を務め、島の元部下の娘である長須美樹が常務を務める同社は業績好調で、顧客数、売り上げ、利益ともに右肩上がりのようだ。今は、中国系ファンドからも関心を集めている。
中国系ファンド「21オデッセイ」の尹から、アントパスの現状や方針について質問が次々と飛ぶが、田上は今後の拡大やリスクについても良く見えているようである。また、全国展開も視野に入れており、資金調達のため上場も検討しているとのことだ。
上場によって一気に知名度が上がり、企業が大きくなる可能性がある一方で、同業の大手企業からM&Aを仕掛けられるリスクも発生する。これには、かつて初芝でM&A合戦を経験してきた島も、慎重な判断をしたいところだろう。しかし、今は、上場に関係なくM&Aは起こりうる。場合によっては、大手が買われる可能性もある時代である。上場したことによるリスクはM&Aにあるというより、多くの株主の声をどれだけ反映できるか、などの方が大きいのかもしれない。
年齢を感じさせない二人も天候には勝てず
さて、今日も島と平瀬健一はゴルフなのである。なにかといってゴルフを楽しみ、何かが起きるのもゴルフ場であるのだが、今回は急な降雪に見舞われるのである。健康体の島と平瀬もさすがにプレイは中止である。判断の早さはさすが経営者、といったところか。
帰りの車中で電話を受ける島。電話の相手はアントパスの長須であった。降雪の影響で都心部の配達が困難だという。業務拡大の一方で、悪天候リスクに備えていなかったのか、そんなことで社外取締役にヘルプしないといけない程度の経営判断レベルなのか、とちょっと心配になるが、ここで速やかに対応するのが島耕作なのである。
島が何かあったときに連絡を入れる先はほぼ1つしかない
困ったときの、グレちゃんである。といっても、もうグレちゃん自ら出張ることはなくなり、最近はもっぱら七瀬五郎である。五郎の愛車は4WDで、なんとメルセデスベンツのGクラスである。探偵稼業はそんなに儲かるのだろうか。自衛隊時代の稼ぎなのだろうか。グレちゃんがヤリ手で、五郎も十分な報酬を得ているということだろうか。
いくら五郎の愛車が高性能だとしても、自動車一台のヘルプで手が足りるのか謎だが、島も宅配の助っ人に入る。こういったフットワークの軽さ、地位や年齢に全く構わず汗を流せるのが島耕作である。むしろ、社外取締役として現場の作業を知ることを前向きに捉え、なんなら楽しんでいるようである。しかし、数名の顧客は、配達に来た人物がかつての経済交友会のトップだと分かったのではないだろうか。引退して宅配のアルバイト?と勘違いしてしまいそうなシチュエーションではある。
漫画のような偶然も、全部、雪のせいだ。
つい忘れてしまいがちだが、島耕作ワールドはとても狭いのである。島が配達した先のマンションの住人は、まさかの植松権兵衛会長の専従トレーナー・新谷さんであった。こんな漫画のような展開がこの作品の魅力である。
玄関のドアを開けた新谷介護士も、配達した島も、驚いた2人の声を耳にし玄関先に足を運んだ権兵衛もまさかまさか、である。何がそうさせたのか。どうしてこうなったのか。権兵衛と専従トレーナーの新谷がいろんな事情でこうなっているのも、そう、全ては、雪のせいなのである。