課長島耕作、日の出前に家を出ての不倫旅行である。今回はなんとスワッピングである。妻の怜子もまさかこんな早朝からスワッピングのために出かけるとは予想がつくはずもない。そして3話目にしてここまで発展すると、この後にどんな痴態をさらしても大して驚かないだろう。
さて、スワッピングとは言っても今回は夫婦の交換ではない。島の妻の代わりを、大手広告代理店「博通」の中西局長の愛人、春子が務めるのである。このややこしさ。中西は妻の松子にいろいろ言い訳しながら夫婦生活と、春子との愛人関係を続けるのが面倒くさくなったのか。ようは、妻の承諾ありで愛人と北海道旅行をする方法として、スワッピングを思いついたのだろう。もちろん、妻の松子は全く乗り気ではないだろう。そして島も仕事がらみとはいえ、面倒ごとに巻き込まれ災難である。
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軽薄とは何か、「おまいう」を体現する主人公
旭川でデザイン事務所をやっている水野さん夫妻と紹介され、茶番に付き合う耕作。それにしても中西の愛人の春子を「軽薄熟女」と心の中で評し、さらに中西松子を見た途端、目を奪われる相変わらずのクズっぷりである。スワッピングに加担している立場であり、設定を忘れてしまいそうになるが、島も既婚者なのである。
地元民を演じるのも楽ではないはずだが、北海道出身者を装う島。洞爺湖、大沼公園と旅行者が喜びそうな名所を巡り、最後はお決まりの流れである。「断れなかった」だの「よかったら」と中西局長から言われたことだの、広告賞をとるためだの、というのは大義名分でもなんでもない。ようは、松子の魅力の前に理性が崩壊、いや欲望が勝っただけのことである。それにしても、島の貞操観念の薄さには、もはや驚きすら感じない。
おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?

自分の結婚式に何人招待したか、誰が来たか覚えている人間はどれだけいるだろうか。自身の親戚、友人ですら誰が参加してくれたか、おぼろげではないだろうか。ましてや相手側の友人、しかもその日が初対面だとしたら、覚えていなくては無理もないだろう。
相手の女性から「実は私、あなたの奥さんの友人なんです」と言われ、驚かない男性がこの世にいるだろうか。一方で、友人の夫かもしれない、とうすうす感づきつつもベッドインする女性もなかなかのものである。どっちもどっちな気がするが、どちらかというと、おそらく中西局長の浮気は前から知りつつ、さらにくだらない旅行に付き合わされている松子の方が、自暴自棄になっている感もあり同情を誘うだろうか。松子が夫だけでなく男に愛想をつかすのも無理はない。
社外向けノベルティを社員に配る愚策

なんとなくセンチメンタルな北海道旅行の1か月後、初芝電産は無事に博通広告賞POP部門の最高賞を受賞する。もちろん、中西局長の口利きである。
その成果にスワッピングがあったことなど福田敬三部長はつゆ知らず、喜色満面である。まあ、知ったところで「よくやった!」か、事前に相談したところで「それでなんとかなるならやらんかい!それが君の仕事やろ!」程度だろう。まあ、島も、旅行代金がどこから出たのかは不明だが結局は松子といい思いをし、部長から評価されたのでプラス面の方が大きかったと思われる。そして福田は、次の取締役のポストに収まるための手柄を得たのである。つまり、松子以外は大体プラスで終えたということになるだろう。
そして謎の社長賞である。会社のノベルティというのは往々にして、もらっても使い道に困る。いや、ゴルフをやらない人間からしたら、ゴルフ傘をもらっても無駄にしかならない。そもそもノベルティは普段使いに向いていないものが多いのだ。そしてゴルフ傘を手にしつつ、スワッピングのことなどなかったかのように妻を想う島。ここまでくるともう、サイコパスの域に達しているといっても良いだろう。
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