お気に入りマンガの感想のようなブログです【一部ネタバレあり】

【STEP4】マンボNo.5

島が勤める初芝電産株式会社の社員数は6万人超。全国各地に事業部(工場)と営業所があり、独立採算制をとっている。独立採算制のメリットは、事業部ごとの収支が明確になることや、意思決定のスピードアップが図れることなどだろう。一方のデメリットとしては、同じ会社でありながら連携があまりなかったり、同じような業務を各事業所で行うため結果的に非効率になったりすることである。ただ、意思決定の迅速化が図れるといっても、初芝電産はもはや立志伝中の人物である吉原初太郎の存在が大きすぎるため、トップの顔色を窺い最終決定が遅れる、または鶴の一声で工程がすべてひっくり返る、などが発生しそうである。

さて、4話にして初めて女性との絡みがなかった今作である。女性がらみではないということは、弘兼先生お得意の人情噺である。舞台はゴルフ場。社内外の同志が集まって設立した「二十日会」での親睦ゴルフコンペである。そこで登場するのが五十嵐伸介。「学生 島耕作 就活編」にも登場する、島の大学時代からの友人である。

プランニングセンターコスモス企画に勤める五十嵐だが、島は学生時代のコトを忘れてしまったのだろうか。「就活編」で就職先が見つからず困っていた五十嵐に、小規模ながら超一流のクリエーターが集まっている注目のデザイン会社「Eデザイン」を紹介したのは島ではなかったか。どうもこのあたりの島はいい加減である。五十嵐は学生運動に加わっていた時期はあるものの、特に熱心ではなかったはずだ。それなのに島の記憶における学生時代の五十嵐のイメージは、反体制の血とバイタリティにあふれる70年安保の全共闘の闘士である。女性がらみの回ではないが、いい加減さやクズっぷりは今話でも発揮しているようである。


豪華優勝賞品!これが大企業の親睦コンペ!

コンペは盛り上がりを見せた中で終わったようで、優勝はなんと初出場の五十嵐である。そして優勝賞品はビデオデッキ。ショールーム展示品としても、大企業らしい商品の豪華さである。そして、親睦会でもしっかり仕事に絡めるところが二十日会の特徴のようだ。お題は新製品のネーミング。こんなコンペで採用を確定しまって良いのか疑問だが、採用者には10万円相当の5インチカラーテレビが進呈されるということで、これまた大盛り上がりである。

皆がネーミングを考えている最中、部下に呼び出される島。要件は五十嵐のプレー中のチョンボ。チョンボというかルール違反である。誰も見ていないだろうからといって、手でボールを投げ、うまくリカバリーしたことにするのはさすがにダメだろう。たかが親睦コンペではあるが、商品が豪華であり、今後の仕事での絡みを考えると看過できない事象である。

ただ、こういったことが起きた場合、どの時点で誰に伝えるのがベストなのか。最適解を探すのは難しい。証拠写真とともに懇親の場で五十嵐を糾弾するのは簡単だが、雰囲気は最悪になるはずだ。コスモス企画との取引も中止になるだろう。もちろん島は、そんなことは望んでいない。ただ、そのままにしておくわけにもいかない。結果的に、コトを胸にしまい証拠写真も見せず、五十嵐にだけ伝わる方法を考えついた島。五十嵐もうまくごまかし、二十日会は盛会で終わったようである。これは一つの正解なのだろう。

短くない15年の月日を学友はどう過ごしたのか

さて、こうなると気まずいのは五十嵐である。後日、島を新宿ゴールデン街の「アップルソース」に呼び出す五十嵐。そこでチョンボの証拠写真を見せ、五十嵐を軽蔑する島。過去3話でそれぞれ別の女性と関係を持った人間が他人を軽蔑するとは、お前何様だと思わなくないが、ジャンルが違うということだろうか。

しかし、思い返せば五十嵐の就職自体がチョンボだったではないか。Eデザインが人材を募集していることを五十嵐に教え、代表の江藤康隆が求める、スタミナ、忍耐力、押し出しの強さ、そしてやる気と「義侠心」を持つ、営業企画と経営を任せられるガッツのある人間というターゲット像まで伝えたのは島である。五十嵐はそのターゲットに沿った自己アピールで内定を勝ち取ったのだが、これはどう考えても2人のチョンボだろう。それは大ごとにはならなかったものの、島は後に江藤にもたしなめられている。15年の月日は、そんなことを忘れるには十分すぎる時間ということなのだろうか。

ただ、五十嵐はどうしても優勝賞金のビデオデッキが欲しかったようである。1985年当時の大学初任給は、約17万円。10万円のビデオデッキは今の時代(2025年)で考えると、20万円前後ということになるだろうか。コスモス企画で五十嵐の給料は、思うように上がらなかったようである。

それにしても、五十嵐が最初に勤めたEデザインの給料は良かったはずだ。代表の江藤は大手家電メーカー以上の額が出せると強気に発言していた。五十嵐はなぜEデザインを辞めたのか。その後の職歴も不明だが、年収アップには失敗したということだろう。加えて家のローンと別れた妻への慰謝料、2人の子供のうち引き取った男児も、男手一つで育てていかなくてはならない。そこでコンペの優勝賞品が4ヘッドの高級ビデオと知り、チョンボを犯してしまったということである。涙ながらにチョンボの背景を吐露する友人に、どのような言葉をかけるのが正解なのだろうか。最適解はおそらく、ない。

偉大過ぎるトップの鶴の一声で決定するのは‟あるある”すぎるのである

さて、デザインでもなんでも、あーでもないこーでもない、と時間をかけアイデアを出し候補を絞っても最終的にはトップの一言であっさり決まることは、どの会社でも同じなのだろう。「あの時間はなんだったんだ」と一同が拍子抜けになるものの、まあ、そんなものなのだろう。

ということで、コスモス企画にはデザインイメージの仕事が割り振られ、島は5インチカラーテレビをゲットである。ただ、そこからの行動が島耕作ある。どうやって五十嵐の子供が通う小学校を知ったのか不明だが、アップルソースで聞いたのだろうか。カラーテレビをゲットしたことは妻に報告したのか?いや、報告などしないだろう。会社で起きたことを怜子に話したところでおそらく関心を持たれず、ほとんど聞き流されるだけである。父の友人を名乗るおじさんからいきなりカラーテレビを渡された男児は戸惑うだろうが、経緯はともかく、五十嵐家にカラーテレビとビデオがそろったのは救いなのかもしれない。その後、五十嵐は島に感謝を伝えたのかは不明である。