まさかの大量購入である。バスクター・ゴードンが会社の売却額を譲歩したことに比べればスケールは大きくないものの、喝采のニューヨーク進出へ機会を得たと考えれば大チャンスである。ホームレス風の男性の名はダニー・ホークマン。アッパーイーストサイドにある自宅で行うパーティーで、来客用の喝采を振る舞いたいとのことだ。それにしても10ケースは買いすぎではないだろうか。さすがに、1人あたり1ケースも飲むわけがないだろう。お土産用とも考えられるが、パーティーの客の口に喝采の味が合うかは分からない。
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ホークマンはなぜ身分を隠してみすぼらしい格好をしていたのか

ただ、このホークマンは全米にチェーン展開する飲食会社のCEOだった。パーティーにSAKEソムリエを手配してもらう手筈を整えるなど切れ者ぶりを随所に見せるのである。
しかし、ではあのみすぼらしい格好はなんのためなのだろうか。女装男装趣味や変わった性癖などは、社会的に高い地位になる人間が持つ傾向があると聞くが、ホークマンの意図はどこにあるのだろうか。
少人数のパーティーは人間関係を築く最適な場である

参加者10人程度のパーティーだからと侮るなかれ。できるトップは、こういった機会こそ大切にするのだ。喝采を送って終わりではなく部下に任せず、自ら足を運び、生の声を聞こうとするのである。
パーティーの参加者はホークマンの業界の仲間のようである。自分が気にいった喝采を振る舞い、意見を聞かせてもらうということだが、これはつまり、マーケティングリサーチだろう。自身が招待した業界の仲間たちの喝采に対する反応が良ければ、ホークマンは自社のチェーン店に喝采を試験的に展開するはずだ。そこでも反応が良ければ、レギュラー化する。もしかしたら、喝采を優先的に卸してもらう契約を締結することまで描いているかもしれない。もうそこには、みすぼらしいホームレスの男性の姿はどこにもないのである。
金の使いどころと勝負所をわかっている男は強い

さて、不退転の男、沼田清伍はここぞとばかりに勝負に出るのである。なんと、パーティーの参加者全員に、喝采1ケースと、専用セラーをプレゼントするのだ。飲食業に通じたパーティの参加者に、モニターになってもらう腹積もりなのだろう。ホークマンも策士だが、沼田会長もさすがである。思い切った判断だが、喝采を飲んでもらい、周囲に広めてくれるのであれば、先行投資としては安いものだ。
ただ、若干の懸念は、1ケースを飲み終わった後のことだ。沼田会長はセラーを処分するよりはまた喝采を購入してくれると思っているようだが、日本と違い、セラーの置き場所など困らない国である。ホークマンの知人であればほとんどが富裕層であり、提供されたセラーなど大事に持っておくこともないだろう。日本酒専用であればなおさら使い道が限られるのだ。
ともあれ、沼田会長の日本酒のパイオニアとしての矜持である。日本酒専用セラーで、喝采以外の銘柄を保管するようになったとしても、それはそれで構わないのだろう。大事なのは、日本酒という存在を知ってもらうことだ。喝采ではなく、日本酒のおいしさを世界に知ってもらいたいという沼田会長の心意気に、心打たれる今日この頃なのである。
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