ニューヨークの物価高はハンパないのである。市内のホテルに滞在すると200~300万円ほどの出費になるらしい。ということは、このニューヨークの渡航費も桜沼酒造ではなく、島が自腹、つまり社外取締役の報酬の一部を充てているということだろうか。それとも渡航費くらいは桜沼酒造が持っているのだろうか。例えば、往復のチケット代のみ支給で、アップグレード分は島が負担するなどだろうか。
ニューヨークの物価は日本に数倍

物価が世界一高いと言われるニューヨークである。一概に何倍、と記すのは難しいが、一般的な昼食の値段などから考えると、日本と比較し2倍~10倍程度と考えておけば良いだろうか。ニューヨークの物価が高すぎるというより、日本の経済、物価の上昇がほとんど見られないために高く感じるというところだろうか。
さて、ホテルに泊まらない代わりの寝床は、マンハッタンからハドソン川を挟んだニュージャージー州にある娘・奈美の家のようだ。マグロ体質で休むと死んでしまうような島は、ゆっくり過ごすどころか、孫の耕太郎が働く焼き鳥屋に出向くという。この元気さが若さの秘訣だろうか。
焼き鳥に合うアルコールは何か、答えは今日も見つからない

耕太郎が働く焼き鳥屋「鳥慎」は、高級店として知られる。しかし、客が飲んでいるアルコールはワインがほとんどである。さすが、島に誘われ訪れた桜沼酒造の沼田清伍会長はリサーチに余念がない。焼き鳥には日本酒だろう、というのは日本人であれば当然かもしれないが、ビールやサワーと一緒に食す日本人も多いわけで、やはりその土地によって異なるのだ。自分たちの味をそのまま持ち込むのはなかなか困難な道のりである。
ただ、それでも沼田会長は自分たちが信じる日本酒の味を押し通すつもりのようだ。この気概・覚悟こそが成功に導くために欠かせない要素なのだろう。そしてそれは、日本の文化を知ってもらいたいという鳥慎も同じようである。
それにしても、もはやプライベートだと思うが、このような場でも二人はきっちりスーツなのである。まあ、高級店での会食だからスーツは場違いではないが、いつでもどんな時もビジネススタイルが抜けないのが島耕作なのだろう。
ポリシーを押し通すか客のオーダーに応えるか

しかし、受け入れられないものは受け入れられないのである。生ものを受け入れられないのは、欧米文化の人間にはよくあることである。では、ここで客から注文が入ったらどうするか。生ものは嫌だ、焼き直してくれ、という客側と、いや、それはそういう料理なので、と譲らない店側。どちらの言い分も分かるが、どちらも押し付けでもあるのだ。とはいえ、無理に店のポリシーを押し通すよりも、「生ではなく、しっかり焼いてくれ」と客のオーダーとして受け入れるほうが得策だろう。
ただ、日本の焼き鳥に感銘を受け、修行中の耕太郎は腑に落ちないのである。あっさり客の要望を受け入れた店、本当の焼き鳥の良さを感じようともしない客に、憤りを感じるだろうか。これも若さなのである。
かわいい孫を連れだし昼食に行く耕作

昼食というのは口実で、「鳥慎」での耕太郎へのアドバイスである。
ポリシーを曲げなかった耕太郎と客のどちらが正しかったのだろうか。1つ言えるのは、耕太郎のコミュニケーションでによって、客が怒ったということだ。店には様々な客が訪れ、何をおいしいと感じるは人によって異なる。
店のスタンスによって異なるものの、基本的には、料理を腕を見せつけることが目的ではなく、客に飲食を通して満足してもらうことが目的であり、料理人が目指すところだろう。そういって点で、耕太郎のふるまいは間違っているとは言えないが、良くなかったといえるだろう。また、その様子は店内にいる人間にも伝わっただろう。つまり、多くの人たちがそこで多少なりとも気分を害したはずである。これも、耕太郎が望む姿ではないはずだ。
妥協せず、本物の味をわかってもらうには時間がかかる。これは「喝采」も同じである。しかし、地道な努力を続けることにより、実る時が来るのだろう。
ということで、真摯に向き合ったグランパと孫はようやく昼食に向かう。しかし物価高がハンパないこの地ではラーメン1杯が5,000円もするのである。